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お茶でも飲みながら「けいおん!」
けいおん!系SSの中から、お茶でも飲みながらマッタリと読みたいほのぼのしたものを中心に、管理人の好みで載せていきます。
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梓「指が吹っ飛んだ!」
梓2 
1 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 18:34:50.74 ID:NAIol5iI0
梓「…ん?」

梓は、駅のホームの隅に放置してあった鞄を拾い上げた。

唯と梓は、その日、近隣の街に買い物に来ていた。

二人は目当ての物を買い、小洒落た喫茶店で軽食をとり、とても充実した休日を過ごした。

その帰り道の事だった。

唯「あずにゃん、どうしたの?」

梓「あ、いえ。落とし物があって…ちょっと、これ、駅員さんに届けてきますね」

アナウンスが、通過電車の到着を告げる。梓は、その鞄を駅員に届けようと、きびすを返して改札の隣の事務所に向かった。

※管理人 注 鬱展開です。苦手な方は注意を。
5 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 18:39:34.03 ID:NAIol5iI0
汽笛の音。

がたん、ごとん、と、列車の近づいてくる音。気配。

それらをかき消すように、唐突に、バン、と、凄まじい破裂音。

梓「うわっ」

唯「お?あずにゃん、どしたの?」

始め、何が起こったのかさっぱり分からなかった。

鞄に遮られ、爆発の閃光も見えなかったし、目に見える範囲では、何も別状は無かったから。

手に、鈍い痛みを感じて、鞄越しに覗き込んで…梓は、始めてその惨状を目の当たりにした。


6 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 18:44:10.77 ID:NAIol5iI0
梓「うわっ。うわっ!嘘っ!嘘でしょ!?」

唯「あずにゃん?!」

梓「いやっ!いやあ!いやあああああ!」

絶叫。

唯「あずにゃん?!どうしたの?!どうしたの!」

梓「手!手が!手がっ!!いやあああ!!いやああああああああああああああ!!」

唯に背を向けた梓が、どさり、と、鞄の残骸を取り落とす。ぱたぱたと、血液が滴り、足下に赤い水玉模様を描く。


7 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 18:45:44.73 ID:NAIol5iI0
梓は膝をつき、凄まじい悲鳴を上げた。上げ続けた。

その叫び声を遮るように、ゴウッと、通過列車が通り過ぎる。

唯が、梓の背中を抱きかかえ、梓に何か訴える。が、それも、列車の騒音にかき消され、何も聞こえない。

周囲に散らばった爪や、骨の飛び出した、なにか見慣れない食品のような肉片。

それらは、間違いなく、梓のもので。

梓の指は、数本、申し訳程度に付け根の間接を残し、キレイさっぱり吹き飛んでいた。


11 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 18:48:38.10 ID:NAIol5iI0
全く持って、命に別状はなかった。

失血した血液は、精々50mlで、頭にも内蔵にも全く損傷がなかった。手以外に、傷一つなかった。

救急車で病院に連れて行かれた梓は、そこですぐに治療を受けて、その日のうちに退院となった。

それ以上、病院にいても出来る事がなかったのである。

医者は、断端形成がどうとか、湿潤治療がどうとか、よく分からない事を言っていたが、全く理解出来なかったし、全く頭に入ってこ
なかった。

ただ一つ、明確に理解出来た事は、「梓の指が無くなった」という事実だけだった。

ただひたすら、梓の身に起こった不幸を受け入れられず、梓自身は泣きわめき、唯もそれに倣うように、梓の身体に取りすがって嗚咽
を漏らし続けた。

梓の両手は包帯でぐるぐる巻きにされ、両手の先にボールでもつけたような、まるでドラえもんの様な形容になっていた。

傷が癒え、包帯が取れる頃には、指のない、ヘラのような両手が顔を出すだろう。


12 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 18:50:51.22 ID:NAIol5iI0
梓の両親もすぐに駆けつけ、梓を抱きかかえて号泣した。

唯は、大の大人の男性が大声で泣く所を始めて目の当たりにし、より一層、絶望感を募らせた。

怪我は治るもので、医者は凄くて。

医者じゃない大人も凄くて、だからきっと、梓の手は、誰かがどうにかしてなんとかなるんじゃないかと、心の奥底で無根拠に抱いて
いた唯の希望は、無惨に打ち砕かれた。

梓の手は、一生、治る事は無い。

現在の医学ではどうしようもなく、治らないレベルに、梓の手は損壊していた。

もう、梓が、あの見事なギター捌きを見せる事はない。出来ない。一生。

数百時間、いやいや数千時間、ひょっとすれば四捨五入すると一万時間に達するかもしれない、それだけの、人生の何分の一かを費や
した、梓のギターの腕前は、指と一緒に消滅してしまった。


13 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 18:53:44.35 ID:NAIol5iI0
いや、ギターどころか。最早梓には、日常生活すらままならない。そういう身体になってしまった。

慣れないうちは、一人で食事もできないだろうし、用を足す事すらままならないだろう。

箸はもちろん、スプーンやフォークも持てない。扱えない。

用を足す為に、下着を下げる事も困難だし、用を足した後、紙で清める事も難しいだろう。

両手の機能の殆どは、指が担っている。指以外の関節は、その殆どが、指を対象に近づける為に機能している。つまり、指を失った梓
の両手は、その機能の殆どを消失してしまった。

つまり梓は、両手を失い。

日常生活すら他人の介助が必要なレベルの、重篤な障害者になってしまった。

梓は、人生の内で最も輝かしい青春時代を、そしてその後の死ぬまでの人生の全てを、障害者として生きる事になった。


14 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 18:57:31.57 ID:NAIol5iI0
唯は、警察にいろいろ聞かれたが、その内容は殆ど何も覚えていない。

そして、警察に話す事など、実際、殆どなかった。

梓は、落ちていた鞄を拾っただけ。

親切心で。

他には何もなく、純粋に、鞄の持ち主を案じて。

梓は、何もしていない。

強いて言うなら善行を行った。行おうとした。それだけ。

それなのに。それだけなのに。

この仕打ちは。

他には、何も分からない。

分かりたくない。分かろうとも思わない。

ただ、ひたすらに、犯人が憎かった。

見つけ出して、殺してやりたい。それだけだった。


16 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 19:02:06.39 ID:NAIol5iI0
世間は、この悪質ないたずら、いや、犯罪行為に、恐怖した。

犯人は、捕まらなかった。

ニュース、新聞、あらゆるメディアがこの犯罪行為を世間に流布した。だが、そこに中野梓の個人名が出る事はなかった。

琴吹紬は、財閥の令嬢であり、その両親は経済界に影響力を持っていた。

紬は、両親を利用して、平たく言えば、メディアに対し圧力をかけた。

琴吹は、娘に懇願され、中野梓に対する、メディアの過度な接触行為を控えさせた。

その試みは成功した。

中野家には、数度、記者からの電話があっただけで、それも全て断ると、それ以上のコンタクトは無かった。


17 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 19:03:18.33 ID:NAIol5iI0
山中さわ子は、梓の直接の指導者ではなく、また、教育者として過度に熱心なタイプでもなかったが、この件に関してはその業務範囲を完全に逸脱して、梓のために尽力した。

安易な好奇心や自己顕示欲から、被害者の事を知ろうとしたり、外部に漏らしたり、そういった事が起こらないよう、さわ子は、慎重に、積極的に動いた。

また、梓が一日でも早く復学出来るよう、学校にも働きかけたし、他の障害者を受け入れ可能な学校にもコンタクトを取った。

梓がその気にさえなれば、多分、すぐに復学が可能だろう。それは、さわ子の努力の成果であった。

それ以外にも様々な人間の協力で、結果、被害者である中野梓について、殆ど世間に知れ渡る事はなかったし、梓は学校にも受け入れ
られる状態になっていた。

だから、梓の周辺は、比較的平穏に保たれたし、社会に復帰する事も可能な状態になっていた。


19 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 19:04:55.44 ID:NAIol5iI0
しかし、結局のところ、梓は閉じこもった。

家族と、それと、献身的に梓の介護をする唯以外は、顔を見る事すら出来なくなった。

梓は、学校に行かなくなった。それどころか、家から殆ど出なくなった。

その後、数ヶ月は、通院するため辛うじて外出する事が会った。

指の断面が形成され、通院の必要性が無くなると、それすら無くなった。


20 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 19:05:18.55 ID:NAIol5iI0
梓は、完全に家に閉じこもった。

唯は、その生活の殆どを梓に費やした。

常に、梓の傍にいて、食事や入浴やトイレの世話をしたり、泣き出したりわめいたりする梓を根気づよくあやし続けた。

一緒になって、梓の不幸を共有し、一緒にその不幸を受け止めようとした。受け止めようと努力した。

しかし、その不幸は、齢16の少女には重すぎて。

梓の精神は、徐々に蝕まれ、不安定になっていった。


22 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 19:08:38.57 ID:NAIol5iI0
梓は、時折、唯に愛機のムスタングを肩にかけさせ、指の無い手で弦を押さえようとした。指の無い手で、弦をかき鳴らそうとした。

しかしそれは、かなわない事だった。何度やってみても、絶望的に、不可能だった。

日を置いては、唯にそれをねだり、その度、自分の変わり果てたその手では、演奏が不可能な事を再確認し、その度に癇癪を起こした。

梓「こんな!こんなもの!いらない!もういらない!」

梓は、愛機のムスタングを感情に任せて叩いた。

いらないのは、ギターだったのか。それとも、その機能の大半を失った、自分の両手だったのか。


23 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 19:09:16.48 ID:NAIol5iI0
ばん、ばん、びいん、びいん、と、虚しく音を立てるギターを、梓は叩き続けた。

皮膚が裂け、筋肉が損傷し、炎症を起こし、ひょっとしたら骨にヒビが入っているかもしれない。それほどに強く、梓はギターを叩き続けた。

唯「あずにゃん!おねがい、おねがいもう止めて!」

梓「ううう!唯先輩!唯先輩!うわああああん!うわああああん!」

梓は、唯にしがみついて、泣きわめいた。唯も、梓を抱きしめ、一緒になって泣いた。


24 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 19:12:55.77 ID:NAIol5iI0
梓が辛うじて、正気を保っていたのは、唯の存在があればこそだった。

梓は、両親より、唯の介護を受け入れていた。

事件以来、唯はずっと、梓の家に泊まり込んで、梓のために献身した。

唯の両親は、当然それに対してポジティブな感情を抱かなかったし、梓の両親も反対したが、最終的には本人同士の希望で、今のような形になった。

唯も、梓に合わせて学校に行かなくなった。

学校の親友達は、皆、梓の事を心配していた。唯の事を心配していた。

一目、会おうと、何度も携帯を鳴らしたり、家を訪ねたりした。


26 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 19:14:17.82 ID:NAIol5iI0
だが、梓は、それを拒絶した。

こんな自分の姿を、誰かに見られたくないと。かつての親友達の善意を、拒絶した。

そして、親友達は、全員等しく、梓の心理状態を理解していた。

だから、今、過剰に梓に接触しようとしても、良い結果にならない事は分かっていた。

それでも、心配で心配でしょうがなくて、時折電話やメールを送ったりした。

梓も、時には、精神状態が良くなり、前向きな発言をしたりする事もあったし、足の指を移植する方法などを見つけて、一縷の希望を抱いたりしたが、基本的には梓の精神のベクトルは、ネガティブな方向へとひたすら傾いていった。

徐々に、精神がおかしくなりつつあった。

夜泣きをしたり、夢と現実が混同して、意味不明な言動をする事もあった。唯の介護の負担は、少しずつ上がっていったが、唯はそれを全て受け入れ、彼女の時間のほぼ100%を梓の為に費やした。


28 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 19:16:33.36 ID:NAIol5iI0
梓「唯先輩!唯先輩!どこですか!うわああん!唯先輩!」

夜間に目を覚まし、隣に寝ているはずの唯が見当たらず、梓は感情に任せて泣きわめいた。

唯「あずにゃん!あずにゃん、ごめんね!トイレ行ってたの、ごめんね!ここにいるからね!」

唯が、すぐに梓の元に駆けつけ、泣きわめく梓を抱きしめ、あやした。

梓「唯先輩!うわああん!いっちゃやだ!一緒にいて!お願い!うわああん!」

唯「ううう…!あずにゃん、大丈夫だから!ずっと一緒にいるから!」

二人は、抱き合って、泣きわめいた。

梓は、完全に唯に依存していた。

片時も、離れず、唯がトイレに行くときすら、傍を離れなくなった。

梓の両親に、何度、謝罪の言葉をかけられたか分からない。何度、感謝の言葉をかけられたか分からない。


29 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 19:18:15.78 ID:NAIol5iI0
梓が眠っているあいだ、唯は親友達とのコンタクトをとったり、妹の憂と会ったりした。

憂「梓ちゃん、良くならないの?ねえ、おねえちゃん」

唯「大丈夫。すぐよくなるよ。学校にだって通える」

憂「そうじゃないよ。うぅ。そうじゃないよお姉ちゃん」

憂も、梓の不幸を、一緒になって悲しんでいた。

憂は、空いた時間の全てを、梓の手の治療の可能性に費やしていた。


30 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 19:18:42.22 ID:NAIol5iI0
既存の療法を調べ、研究中の療法を調べ、再生医学を調べ、義手・義指などを調べ。

更には自ら医者や研究者にコンタクトを取ろうともしていた。

その多くは門前払いではあったが、憂もその時間の殆どを、梓の為に使っていたと言って良いだろう。

憂は、梓がどれだけの努力をしていたか知っていたから。

自分にとって、かけがえの無い親友が、この理不尽から解放される為なら、何だってする。その覚悟を抱いていた。

他の友人達も、平沢姉妹程の極端な行動は起こさなかったが、皆等しく、梓の事を思っていた。

律も、澪も、紬も、純も、それほど交流は無かった和も、顧問のさわ子も、皆等しく、梓の事を思っていた。


34 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 19:25:57.75 ID:NAIol5iI0


唯の献身的な介護もあり、梓の様態は少しずつ落ち着いて行った。

改善しては悪化し、改善しては悪化し、を繰り返していたが、梓の精神は、自分の不幸を少しずつ受け入れ、総合的には改善に傾きつつあった。

一時は、日常生活が困難なレベルで、精神に悪影響が出ていたが、徐々に落ち着きを取り戻し、今では唯が外出出来る程度には安定を取り戻していた。

梓は相変わらず、外出は出来なかったが、事件前の人格を取り戻しつつあった。

事件から、既に半年近くが経過していた。季節は移ろい、春になっていた。


35 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 19:26:44.07 ID:NAIol5iI0
唯は、留年した。

梓は、事情を斟酌され、進級扱いとなった。復学すれば、唯と同じ、二年生からの復学となる。

律、澪、紬は進級した。唯の留年については、色々と、思う所があったが、仮に復学したときの梓の負担を考えると、唯についていて貰える現状は、ある意味都合が良かった。そう思い、過度なリアクションはしなかった。唯も、その事に納得というか、満足していた。


36 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 19:29:26.78 ID:NAIol5iI0
梓は、少しずつ、友人達とのコンタクトをとり始めていた。

直接、連絡する事はまだ出来なかったが、唯越しに、少しずつメッセージのやり取りを始めていた。

親友達は、それを見て、心底安堵し、梓の状態の改善を喜び合った。

いずれ、梓の心の傷が癒え、学校にも来られるようになって。

そしたら、一緒に、前のように。

前のように…

きっと、いつか。


38 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 19:31:58.38 ID:NAIol5iI0
唯「ほら見て、あずにゃん。りっちゃん達」

唯が、梓に携帯の画面を見せる。梓が、それを興味深そうに覗き込む。

唯「今年も新歓ライブやったんだって。憂と純ちゃん、けいおん部に入ってくれたみたい」

梓「…じゃあ、ベースが二人ですか?プッ、変なの」

唯「え、変かな?変なの?」

くすくす、と、梓がおかしそうに笑った。唯もつられて、ふにゃっと破顔した。

梓は、少しずつ、笑顔を取り戻していた。


39 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 19:33:57.94 ID:NAIol5iI0
梓「唯先輩、ごめんなさい。背中、掻いてもらっていいですか?」

唯「うん。このへん?」

梓の背中を、こしこしと、スウェット越しに掻くと、梓は気持ち良さそうに目を細めた。

唯「気持ちいい?」

梓「…はい。ありがとうございます、唯先輩」

梓は、元々器用な質だった事もあり、時間はかかるが、日常生活の殆どは一人で出来るようになりつつあった。

ただ、こうして唯といるときは、唯に甘える事も多かった。


41 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 19:36:16.02 ID:NAIol5iI0
梓「…律先輩、ちゃんと練習してるんですね。びっくりしました」

唯「ふふ。あずにゃん、甘く見たら駄目だよ。りっちゃん、ああ見えて、やるときはやるんだから」

梓「…てっきり、私がいなくなったら、お茶ばかりしてるんじゃないかと思ってました」

梓の予想は、良い意味で裏切られ、律を始め、澪も紬も、新しく入った憂と純も、それまで以上に練習を重ねていた。

梓「この曲、いいですね。ずっと聞いていたい」

新歓ライブの演奏は、携帯を通じて、その映像が唯の元に届けられていた。

唯と梓は、寄り添って、その演奏に聞き入っていた。


42 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 19:38:23.56 ID:NAIol5iI0
梓「みんな、楽しそう。凄く、上手」

唯「また皆で演奏出来るよ。やっぱり、皆揃わないと、駄目だよ」

梓「…」

梓は、自分の手を見つめ、…首を横に振った。

梓「無理です」

唯「…あずにゃん…」

梓は、唯から離れ、仰向けに寝転んで、言った。


43 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 19:38:53.88 ID:NAIol5iI0
梓「…私は、もう、このステージに立つ事は出来ないんですね」

唯「あずにゃん…」

梓は、仰向けに寝転んで、顔を腕で覆って…泣き出した。

嗚咽。

長い、悲痛な、嗚咽。

梓は、自分の境遇を理解し、受け入れ…最終的に、自分の夢の終わりを、ついに理解した。


44 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 19:39:25.59 ID:NAIol5iI0
梓にとって、音楽は、夢であり、殆ど生きる意味そのものであった。

もちろん、ギターだけが、音楽として生きる道の全てではない。

しかし、幼少の頃から想い描いていた、梓の生きる道は、…最早、完全に、潰えた。

梓は、本当に久しぶりに、声を上げて、泣いた。

でも、これでもう、終わり。

梓は、紆余曲折を経て、受け入れた。自分の不幸を、受け入れた。

そして…自分の夢の終わりを、生きる意味の終焉を、受け入れた。

梓は、いつまでも、泣き続けた。


64 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 20:13:21.34 ID:NAIol5iI0


梓「じゃあ、そろそろ、行きましょうか」

ある晴れた日。

二人は、久々に外行きの服に着替えていた。

二人はこれから、日帰りの小旅行に出かける。これは、梓が言い出した事だった。

「奇麗な海が見たいです。岬があって、風車とかあって、人がいなくて景色がきれいな所」

唯は、紬達に連絡をとり、この旅行の準備を進めた。

ちょうどイメージ通りの紬の所有地があり、紬は快く手配を進めてくれて、梓がこの話を言い出した翌週には、旅行の準備は全て整っていた。

そして今日、二人は旅行に出かける。


65 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 20:14:28.01 ID:NAIol5iI0
唯「そうだね。そろそろ行こうか」

唯は小ぶりのボストンバックを肩にかけ、梓を振り返った。

唯「あずにゃん、それ、凄く似合ってる。凄く可愛い」

梓は、そう言われ、照れくさそうに自分の姿を見下ろした。

梓「唯先輩、ありがとうございます。これ、凄く、高かったですよね?」

唯「えへへ、そんな事ないよ。あずにゃんに、きっと似合うな、と思って。思わず買っちゃった」

梓の服装は、一目見て、全て上等なものだと分かった。


66 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 20:14:54.50 ID:NAIol5iI0
唯は、幼稚園から貯めていたお年玉の貯金を全て下ろし、梓の洋服を購入して来た。

今日の旅行の為でもあったし、また、雑誌で見かけて、梓に似合いそうだったので、いても立ってもいられず買ってしまった、というのも正しかった。

それを身につけた梓は本当に絵になっていて、そのまま雑誌に掲載したいくらいだと、唯はそんな風に思った。

梓は、久しぶりにお洒落をした自分の姿を鏡に映し、嬉しそうに笑みを零していた。

唯も、そんな梓の姿を見て、例えようも無い幸福感に包まれていた。

梓が、久しぶりに取り戻した、女の子としての日常。

それを享受する梓の姿が、堪らなく愛おしくて、唯は思わず梓を抱きしめながら、言った。

唯「じゃあ、行こっか!」

梓「はい!」


67 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 20:16:33.50 ID:NAIol5iI0
両親に見送られ、家を後にする。

二人は、喜んでいる様な、悲しんでいる様な、複雑な表情を浮かべていたが、終始、その暖かい眼差しが陰る事は無かった。

思えばずっと、二人は、唯と梓を見守って来た。

本当なら、肉親ではない唯は、部外者と追い出されても仕方が無かったかもしれない。

実の親として、娘の力になれない事の歯痒さや、周囲からの好奇の目もあった事だろう。

それでも、娘の希望を叶えてやりたいと、本来無関係であるはずの唯に、その半身とも言える娘を託していたのだ。

だからもう、梓の両親は、そのまま唯の肉親と行っても、過言ではなかったかもしれない。


68 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 20:17:16.13 ID:NAIol5iI0
唯はなんとなく、察していた。今日の、この旅行の意味。それをひた隠す梓。

そして、それに気づきながらも、表情に出す事無く、ましてや止める事も無く、静かに、暖かく、穏やかに娘を送り出す両親の胸中を。

唯と梓は、振り返り、笑顔で手を振って、別れの挨拶をした。

「行ってきます!」

「行ってらっしゃい」


69 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 20:17:49.81 ID:NAIol5iI0
…その姿が見えなくなった後、おそらく二人は、泣き崩れただろう。

それでも。

最後まで、二人は笑顔で見送った。

貫き通した。

娘の幸せを願って。嗚咽を噛み締め、涙を堪え、貫き通した。

幸多き、人生だったと。

幸多き家族だったと。

この光景を見た、誰しもがきっと、そう思っただろう。

晴れ渡った青空の下。

澄んだ空気と、舞い散る桜に包まれながら。その家族は、最後のお別れを交わした。


70 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 20:19:24.58 ID:NAIol5iI0


梓「…凄い!」

海沿い。水平線。晴れ渡った青空。

どこまでも続く岬に沿って視線を流すと、その先には大きな風車があり、風を受けて大きく回っていた。

遠くに、海鳥の群れ。遥か向こうに、ヨットの陰が見える。

一面、パノラマに広がる、まさに絶景だった。

それは、まるで絵画のように美しい光景だった。

梓「唯先輩、見てください!凄い!」

梓が、岬の方へぱたぱたと駆け、唯はそれを見守るように追っていた。


72 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 20:20:07.43 ID:NAIol5iI0
梓「凄い!奇麗!」

唯「ほんとだね、すごい!」

岬の端で、空を見下ろす。

晴れ渡った空は、そのまま海と繋がっているようで、二人はどこまでも広がる青い光景に目を奪われた。

しばし、その景色に見とれる。

唯「あずにゃん、疲れてない?」」

梓「えーと…えへへ。ずっと家にいたから、身体がなまってるみたいです。ちょっと疲れちゃいました」

唯は、岬の芝の上にレジャーシートを敷き、大の字に寝転がって、そこに梓を促した。

梓「あ…服、汚れちゃいますかね」

唯「いいよいいよ、気にしないで。気持ちいいよ?」


74 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 20:21:45.19 ID:NAIol5iI0
梓も、その隣に寄り添うように横になった。

梓「…うわあ、凄い。空が、凄い。こんなに近い」

そよそよと、風を浴びながら、二人はその自然を堪能した。

梓「ここ、凄いですね」

唯「うん、ムギちゃんのおすすめスポットだからね!」

唯は、もそもそと起き出して、ボストンバッグからバスケットを取り出した。


76 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 20:22:48.06 ID:NAIol5iI0
唯「そろそろ、お昼にしよっか。憂がね、サンドイッチ作ってくれたの。食べる?」

梓「はい!」

二人は、昼食をとり、また岬を駆け回った。

童心に帰り、二人で青い景色を横切りながら、疲れてはまた芝に横になって、しばらくしたらまた駆け回って…

そんな事を、飽きずに何回も繰り返した。

二人は、過言ではなく、人生で一番、楽しい、無邪気な時間を過ごした。


78 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 20:25:21.65 ID:NAIol5iI0
…心地よい疲労感の中、二人は、寄り添うように腰掛け、海を見下ろしていた。

まだまだ、日は高く、今日という日はたっぷりと残っていた。

でも…梓は、そろそろ時間だ、と思った。

その瞬間を、青空の下で迎えたかったから。

だから、そろそろ、時間。

梓は、唯に語りかけた。

梓「あの、ですね。ちょっと、聞いて欲しい事があるんです」

唯「ん。なあに?」


80 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 20:26:16.48 ID:NAIol5iI0
このまま、唯と旅行を堪能して、そのまま帰っても良いんじゃないか。

そんな想いが、梓の胸によぎった。

今日という日は、まだまだたっぷり残っている。

ここで一息ついた後は、浜辺に降りて、波と戯れて。

少ししたら、レストランで食事をとって、またここに戻って来るのだ。

その頃には、岬は夕日に包まれているだろう。

それはきっと、とても美しい景色に違いない。

そして、その光景を目に焼き付け、家路につくのだ。

それはきっと、素敵な思い出になるはずだった。

梓の胸に、そんな思いがよぎる。


81 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 20:27:19.76 ID:NAIol5iI0
でもそれは、駄目。もう、決めた事だったから。

梓「…あの、ですね」

唯「うん」

思わず口をつぐむ。

唯は、梓の言葉を待っている。

梓「あの、ですね。私」

唯「うん」

はやく、言わないと。


82 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 20:28:06.96 ID:NAIol5iI0
梓「…あの、ですね。凄く、言いづらいって言うか…あの。ぐすっ…」

梓は、思わず、泣き出してしまった。

笑顔で言おうと。

笑顔で言って、唯を悲しませないようにと、そう思っていた。

その決心は崩れ、梓は嗚咽を堪えることも、言葉を発する事も出来なくなっていた。

そんな梓を、唯は柔らかい表情で見つめながら、根気強く促した。

唯「あずにゃん。言ってごらん?」


83 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 20:29:08.53 ID:NAIol5iI0
梓「ぐすっ…うええ…。唯先輩。私、死のうと思ってます。今日、ここで」

唯は、梓の身体を抱き寄せ、あやしながら、先を促した。

梓「私、死のうと思ってました。ずっと前から。でも、唯先輩がいてくれたから、今まで生きて来られた。唯先輩がいなかったら、きっと、すぐにでも死んでました」

唯は、梓を撫でながら、相づちを打って、その言葉に耳を傾けた。

梓「唯先輩。唯先輩と出会えて、よかったです。本当に、よかったです。唯先輩がいなかったら、私はきっと、自暴自棄になって、悲惨で、惨めな思いのまま、死んでいました。唯先輩のおかげで、最後は幸せな気持ちで、死ぬ事が出来るんです」

梓を抱きしめる、唯。梓も、その両手を唯の背中に回し、二人で抱き合いながら、唯は梓の言葉を受け止めた。


84 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 20:30:43.26 ID:NAIol5iI0
梓「唯先輩、ごめんなさい。今まで、本当にありがとうございました。私にとって、唯先輩は、きっと人生で一番大事な人でした。だから、唯先輩に、私の最後、見送って欲しいんです」

唯にしがみつき、嗚咽を漏らす梓。

そして、それを抱きしめ、柔らかく包み込みながら、唯は言った。

唯「あのね、あずにゃん。私ね、最初から分かってたよ」

唯は続けた。

唯「きっと、この旅行はそういう事だって、分かってた。きっと、あずにゃんのお父さんとお母さんも、分かってた。この意味、分かるかな?」


85 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 20:31:20.05 ID:NAIol5iI0
梓「…じゃあ」

梓は顔を上げて、唯を見上げる。

唯は、ゆっくりと…首を、横に振った。

唯「あずにゃん、私は、あずにゃんを見送ってあげる事は出来ない」

梓の頭に、その意味が浸透する前に、唯は続きを口にした。

唯「あずにゃん、あずにゃんが死ぬなら、私も一緒に行ってあげる」

その言葉が、更に梓に浸透し…梓の表情が、みるみる歪んでいく。


87 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 20:32:15.00 ID:NAIol5iI0
梓「…ゆ、唯先輩、駄目ですっ、そんなの…っ」

全く、予想していなかった唯の返しに、梓は戸惑った。

きっと、唯は、止めない。そう思っていた。半年に渡って、それこそ片時も離れる事無く暮らして来て、梓の深い絶望を、誰よりも深く理解してくれていると思っていたから。

果たして、唯は、梓の想像通り、梓の意思を理解していた。

それも、今日の旅行の、ずっと前から。

やはり、唯は、今や梓の最大の理解者となっていた。

そして…唯は、そんな梓と、最後の瞬間も共にしてくれようとしていたのだ。


88 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 20:32:56.95 ID:NAIol5iI0
唯「あずにゃん、いいでしょ?この半年間、ずーっと一緒にいたんだもん。最後まで、一緒にいたい」

梓「唯先輩…うええ…唯先輩…」

唯は、おどけるように言ってみせた。

唯「それでね、一緒に天国についたら、また一緒にギター、弾こう?」

梓「唯先輩、駄目です。唯先輩…!」

言葉とは裏腹に…梓は、歓喜していた。

唯が、梓と、ずっと一緒にいてくれるという意思表示に。

唯の、その決意に。


89 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 20:33:55.61 ID:NAIol5iI0
それでも。

梓「だめですっ…うええ…唯先輩は、死んじゃ駄目です…うええん…!」

それでも。やっぱり、梓は。唯に、生きていて欲しかった。死んで欲しくなかった。

梓「死ぬのは、私だけです。私だけで良いんです。うええん…」

半分本当。

半分嘘。

梓は、真実、唯には死んで欲しくなかった。

でも、相反する思いも、同時に抱いていた。

梓は、唯に、一緒に死んで欲しいと、そう思っていた。


90 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 20:34:58.46 ID:NAIol5iI0
そして。梓の想いとは無関係に、唯の心は、決心は、とっくに決まっていた。

唯「あずにゃん。私はね。あずにゃんと一緒に、死ぬ。もう、決めたことなの。私はもう、ずっと前から、決めていたの」

梓「唯先輩、駄目です!駄目です!」

唯「あずにゃんが死ぬなら、私も死ぬ。あずにゃんが負い目を感じる事なんて、全然ない。私がそうしたいの」

梓「駄目です!唯先輩!」

唯は、滔々と、語った。


91 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 20:35:32.36 ID:NAIol5iI0
唯「あずにゃんを一人になんて、絶対にさせない。あずにゃんがいない人生なんて、考えられない。私の人生は、あずにゃんがいないと、もう、成立しないの」

梓「うええ…唯先輩!唯先輩!」

唯は、滔々と、語った。

その想いを。

唯「だから。あずにゃんがいなくなるなら、そこで私の人生も終わりなの。だから、それを、負い目に感じる事なんて、全然ない」

告白。


93 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 20:36:46.43 ID:NAIol5iI0
唯「あずにゃんがいたからこそ、私は、輝かしい人生を送る事が出来た。あずにゃんがいたからこそ、私の人生は、こんなにもすばらしい物だった。全部、あずにゃんのおかげなんだよ。本当だよ、あずにゃん」

梓「うう…!唯先輩…!」

唯「あずにゃんがいない人生に、意味なんて無い。あずにゃんがいるからこそ、私は生きている意味がある。あずにゃん、あずにゃんは、最早、私の生きる意味そのものなの。今、分かった。ようやく分かった。あずにゃん、私はあずにゃんが好き。大好き。愛してる」

梓「唯先輩…!うう、唯先輩!嬉しいです!私も大好きです、愛してます、唯先輩!」

唯「あずにゃん、一生、一緒にいよう。結婚しよう。今すぐ、結婚しよう。天国でも、地獄でも良い。あずにゃんさえいれば、もう他には何もいらない。何も望まない。あずにゃん、ずっと、永遠に一緒にいよう。あずにゃん、愛してる」

梓「唯先輩!唯先輩!嬉しいです!唯先輩!」


94 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 20:37:18.83 ID:NAIol5iI0
梓は、唯にしがみついて、泣いた。それは、今まで流してきた涙とは異質の、感涙だった。

唯も、一緒になって泣いた。それも同じく、感涙だった。

二人は、今この瞬間、その想いを遂げた。

本来、その思いは、遂げられる事は無かっただろう。

ひょっとすると、お互い、最後まで気づかないはずだった。そんな、儚い恋心。

しかしそれは、今、この瞬間、遂げられた。

決して、結ばれるはずの無かった二人。

その二人は、この瞬間結ばれて。

二人は、その瞬間…間違いなく、世界で一番、幸せだったに違いない。


98 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 20:38:38.39 ID:NAIol5iI0


岬。

穏やかな波。どこまでも続く、広く青い海。

水平線。飛行機雲。穏やかに二人を照らす太陽。

そよそよと、さわやかな潮風に吹かれながら、二人は向かい合って、誓いの言葉を口にした。

唯「…えっとね。誓いの言葉。えへへ。私は、あずにゃんを、永遠に愛する事を誓います」

梓「唯先輩。私も、唯先輩を永遠に愛しています。大好きです、唯先輩」

二人はそっと、口付けを交わした。


101 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 20:39:57.43 ID:NAIol5iI0
初めての、キス。

それは、二人が永遠になった瞬間だった。

始めは、その想いが何なのか、二人とも分からなかった。

今まで生きて、触れた来た、知識。経験。社会的な常識。通念。

そういったものに阻まれて、二人はその想いの正体が何なのか、始めは分からなかった。

でも今は、分かる。明確に、解る。

唯は、梓の事が、好きだった。

梓は、唯の事が、好きだった。


102 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 20:40:33.68 ID:NAIol5iI0
そして、二人の好意は、この半年の生活を経て、愛情へと昇華した。

二人は、愛し合っていた。

そして、今この瞬間、結ばれて、永遠となったのだ。

…どちらからともなく、唇を離し、ちょっと恥ずかしそうに顔を見合わせ、そして…

唯「…じゃあ、いこっか」

梓「…はい」

二人は、手を取り合って、岬を歩きだした。


104 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 20:41:13.46 ID:NAIol5iI0
先には、崖。

小高く、美しい光景は、ある距離を境に一転して、目もくらむ様な断崖に変わり果てた。

ここから飛び降りれば、間違いなく、死ぬ。

唯「…じゃあ、行こうか。あずにゃん、大丈夫?」

梓「…はい。大丈夫です」

崖。

見下ろす地面は、あまりに遠く、遠近感が掴めず、どの位の高さがあるか、全く見当がつかなかった。

梓は、足がすくみ、その場にへたり込んだ。


105 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 20:42:06.98 ID:NAIol5iI0
唯「…あずにゃん。…大丈夫?」

梓「…大丈夫です。行けます。行けます」

しゃがんだ状態で、崖を見下ろす。梓の身長分、低くなったその視界は、それでも尚、見当がつかない程に高く、梓に死を実感させるのに十分だった。

ここから飛び降りれば、死ぬ。間違いなく。

そうでなくても、このまましばらくここに佇んでいれば、すくんだ足はその機能を喪失し、いずれ足場を踏み外して、崖に転落するだろう。

梓「…大丈夫です。私、ちゃんと死ねます。うう…ちゃんと死ねます。うう…ぐすっ…」

梓は、言葉とは裏腹に、その場に座り込んで、顔を覆って、嗚咽を漏らし始めた。

しゃくり上げ、鼻をすすり、堪えきれず、声を上げて泣き出した。


107 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 20:43:49.09 ID:NAIol5iI0
覚悟、していたはずだった。

梓は、死ぬ事がどれほど怖い事か、この半年の生活を通じて、嫌という程思い知っていた。

自殺を試みた事は、一度や二度ではない。

死のうと思えば、死ぬ事も出来たはずだった。

紐やロープをドアノブにかけて…時間をかければ、片結びくらいは出来たはずだ。

そこに首を通して、もたれかかって…そんな、想像。


108 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 20:44:24.07 ID:NAIol5iI0
全て、未遂に終わった。

未遂に終わる度、梓は泣きわめいて、その感情を爆発させ、唯にぶつけてきた。唯に甘えながら、生きながらえて来た。

とっくに、結論は出ていた。なのに、それをずっと、唯に甘えて先送りにしてきた。

そして。今日、この瞬間。

梓は、ついに、もっとも望む形で、その生涯を終えるはずだった。そして、唯と二人で、永遠になるはずだった。

それなのに…


109 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 20:45:38.05 ID:NAIol5iI0
死。

それは、生命の終わり。

梓という、存在の終わり。

そして、それはそのまま、唯という存在の終わり。

もっと、あっさりと、速やかに、終わらせるつもりだった。

ちゃんと、上手に、死んでみせるつもりだった。

でも。

それなのに。


110 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 20:47:02.15 ID:NAIol5iI0
最後の最後、梓の脳裏には、よぎっていた。

脳裏をよぎるそれらは、あまりにも尊くて、あまりにも大切過ぎて。

お父さん。お母さん。

律先輩。澪先輩。ムギ先輩。

憂。純。さわ子先生。真鍋先輩。

そして…ずっと、自分の傍にいて、抱きしめくれた、その存在を。

あまりにも、かけがえの無い存在を、梓はこの期に及んで、ようやく思い出していた。


112 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 20:47:51.30 ID:NAIol5iI0
気がつけば、梓は、号泣していた。

気がつけば…梓は、もう、死ぬ事は、出来なくなっていた。

唯は、黙ってその背中を抱きしめていた。

梓が泣き疲れるまで、ずっと、抱きしめていた。

日は落ち、辺りは夕日に包まれ、それは想像通り美しい景色だった。

心地よい、潮騒と、オレンジ色の陽光に包まれながら。

唯はやがて、梓に囁いた。

唯「…あずにゃん。帰ろっか」

梓「…はい」


116 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 20:49:15.82 ID:NAIol5iI0


梓の傷は、癒える事は無い。一生。

その身体と、心の傷を抱えながら、生涯、生きて行く。

辛い事も、多いだろう。

死にたくなる事だって、この先何度もあるだろう。

ひょっとすると、今日この日ではなくとも、最終的に、梓は自害するかもしれない。それくらい、梓の心の傷は深い。

それでも。

寄り添う二人の姿は、あまりにも尊くて、美しくて。

二人が共に歩む先が、幸多い未来になる事を、祈らずにはいられなかった。


119 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 20:50:19.06 ID:NAIol5iI0
唯「あずにゃん。帰ろう」

梓「はいっ」

梓は、もう、泣き止んでいた。

唯と梓は、寄り添うように並び、家路についた。



二人は、歩んで行く。

どこまでも、一緒に。

一生。永遠に。



終わり


127 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします sage New! 2011/04/03(日) 20:53:40.39 ID:jG8nC0xF0
気になって義指について調べてみたが今は精巧に出来てるんだな

128 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 20:53:49.78 ID:eeciFMlh0
乙、まぁ無難といえば無難だがやっぱほっとしたわw
途中の唯に甘えたり我侭いう梓もかわいかった、極限的な状況で初めてお互いの感情を
理解する下りもジンときたよ。

132 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 20:54:59.51 ID:NAIol5iI0
だらだらと長いのを読んでくれてありがとうございました。
なんか、死ななくてすいません。


137 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 20:57:58.17 ID:GZy4SLy3O
おつw
唯梓は至高
それにしてもあずにゃを苦しめた犯人も許せんしマスコミも許せんな

145 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2011/04/03(日) 21:11:12.65 ID:h0BZ9fy60

悲しいけど、2人が死ななくてよかった

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2012/06/22(金) 00:05:46 | | # [ 編集 ]
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